昭和28(1953)年5月21日、資本金150万円、総勢4名で永和印刷は発足した。
現在の会社所在地である文京区の水道(当時、武島町)2-4-23に、
工場部分が平屋、住居部分が二階建ての社屋を新築した。
とはいえ、この時点ではまだ会社は実際には稼働しておらず、
8月になってはじめて事務所に電話が入り、
印刷課長が入社し、桜井のA半裁の活版印刷機が導入された。
9月にも同じA半裁の印刷機が増設され、11月には製版の設備が入り、
なんとか工場らしい体裁が整った。
7月に46万円のはじめての売上を計上しているが、これはブローカーとしての収入であった……
さかのぼること7年前の9月、広島で終戦をむかえた創業者の久永舎春は東京に戻ってきた。
広島の工場建設の要請をした横山氏が主監として宰領していた平井の東光印刷にひとまず籍を置くことになった。
翌年(昭和21・1946)1月には横山印刷の再建を決意した横山の要請を受け、
東光印刷を退社し、新会社の設立(横山印刷の再建)に尽力し、活版部の責任者として常務取締役に就任した。
約3年後の昭和23(1948)年の暮れ、活版部の建設の完成を見届け退社し、昭和24年の春に
池袋の自宅に「久永印刷所」の看板を掲げた。
「印刷所」とはいっても、久永の他には雇われた助手が1~2人で、自前の印刷機もないブローカーで、
受注した仕事はすべて横山印刷でこなしてもらっていた。しかし、ブローカーではいつまでたっても、
安定もしなければ発展もない。どうにかしなくては…という思いは久永のなかに常にあった。
そんなとき、1つの事件が起こった。
●●の受注の窓口は広報課であったが、ある日、人事異動で替わってきたばかりの新任課長さんから、
ぜひ印刷工場をみせてもらいたいという申し入れがあった。しかし、ブローカーである私には、
見てもらう工場があるわけがない。一瞬、ドキリとしたが、ままよ、なるようになれと度胸をきめて、
2、3日後、何もいわずに、いつも仕事をやってもらっている横山印刷へ案内していった。
課長は、工場の看板をみてあっけにとられると同時に、腹にすえかねたようであった。
「ここは久永印刷じゃないじゃないですか」
「ハイ、お言葉のとおりですが、仕事はすべてこちらでやってもらっておりますので……」
そばから、先輩の飯島さんが、横山社長と私の永年の関係を縷々説明して、
「久永の仕事は何をおいても優先的にやることにしておりますから、どうかご安心願います」
と口を添えてくださったので、課長もようやく納得したようであった。
そんな次第で、冷や汗をかきかき、やっと虎口を逃れたが、あのときほど痛切にブローカーの悲哀を
味わったことはなかった。
永和印刷とともに三十年より原文ママ
このときの苦い思い出が工場建設への大きな動機になって、永和印刷の設立に至った。
先代会長の久永保昌が会社の歴史を語る際、永和印刷の創業としては昭和28年であり、
こちらが公式カウントになっていますが、参考記録(?)として、昭和24年も紹介され、
「今年が創業50年、久永印刷所時代を含めると54年…」であったり、
「今年は創業46年であるが、久永印刷所時代から数えると50年の節目である…」と、
常に二つの数字があったのはこういうことだったのです。
おそらく「そのカウント、なに?」とポカンと聞いていた社員もいるでしょうが、そうなのです。
それにしても……
現在の永和印刷では、編集、DTP、印刷を自社で行うことが当たり前の感覚になっていますが、
私の入社当時は、印刷以外は(下手したら印刷も)すべて外注という時代でした。
当時の思い通りに仕事がいかない苦労、いまの若手営業にはわからないだろうと、
H社長とふたりで「ホントだよ、こんな感じで…たいへんだったんだから」と、
H山、T橋、W井に話しては、「ああ、またはじまったよ」というような顔をされ
(たような気がするだけかも)、すっかり年寄りの昔話扱いされてしまいますが、
独立後の久永印刷所時代のオール外注のブローカーとなると、その苦労は並大抵ではなかったことでしょう。
そうそう、私の昔話当時にもいわゆるブローカーさんはよくみかけました。
ただ、戦後とバブル期前後ではその意味合いも、仕事ぶりもかなり異なっていたと思います。
ついでにいうと、そんな昔の外注の苦労話を奇しくもH山やT橋も実体験することになったのですが、
時が経てば、きっと前職のオモシロエピソードのように、笑い話として語ってくれる日がくるかもしれません。
↑ 興味のある方はH山、T橋におたずねください。鉄板ネタ持ってますよ。
前回の記事で言い訳をしていましたが、本当に更新が滞ってしまいました。
次回は、なるべく時間をあけずに、当時の時代背景と、船出した永和印刷の発展をご紹介します。
……Progの制作も遅れています。ちゃんと準備は進めていますので、こちらもお待ちください。
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